デザインだけじゃない、ビールのうまさを引き立てるグラス選びのススメ

酒税法改正 なにがどうなる?

ビールをジョッキで乾杯してグイグイ飲むのは日本のそこかしこで見られる光景。でも、おしゃれなお店や専門店で頼んでみると、ブランデーやカクテルみたいなグラスで出てくることってありませんか? 気取ったお店だから......ではなく、理由はグラスの形状がビールの味わいに関係してくるからなんです。

今回はその仕組みを紐解くべく、ビール専門店の方に話を聞いてみました。


ビールのことを聞くならやっぱり専門店でしょう?


訪れたのは東京・両国にある「麦酒倶楽部 POPEYE」。1985年に先代の青木辰男氏が洋風居酒屋としてスタートし、1994年の地ビール解禁タイミングで地ビールPUBへと業態を変更しました。常時、約70種のビールを樽生で備えるほか、直営のビール工場で開発したオリジナルビールも提供しています。

▲両国駅から歩いて3分ほど。大きなビールグラスが目印。

グルメで知られるサングラスの超大物芸能人をはじめ、全国からビール愛好家が訪れる、知る人ぞ知るビール専門店なんです。

▲家の近くにあったら毎日でも通いたくなるおしゃれな雰囲気。

▲カウンターの上にはグラスがずらりと吊り下げられている。確かにいろんなグラスがある。

▲「麦酒倶楽部 POPEYE」の2代目マスターである城戸弘隆さん。今日はビールとグラスの関係を教えてください!

前職はイタリアンレストランでコックをしていたという城戸さん。とあるお店で飲んだオルヴァル(ベルギービール)に香りがあることを知り感動し、ビールの専門店で働きたいとPOPEYEの門を叩いたそうです。ビールオタクですね。

▲POPEYEで主に使われているグラス。形状や高さがバラバラ。

こちらのお店では形状が異なる10種類以上のグラスを保有。ビールの特徴に合わせて変え、おいしさが最も際立つ方法で提供しています。ビールとグラスの関係について聞くにはぴったりのお店でしょう。


グラスによって大きく変化するのは「香り」と「味」


――グラスによって、ビールのどんなところが変化するんですか?

城戸さん:主に変化するのは「香り」と「味(酸味や甘味など)」。グラスによって、強調するものと抑えるものをコントロールすることで、特徴を最大限に生かしておいしく飲めるようにしているんです。

――こちらのお店では、円筒状のビールジョッキは置いていないようですが。

城戸さん:うちの店は、香りが特徴のエールビールをメインに提供しているので、ジョッキも一応あるんですがほとんど使いませんね。日本の大手ビールのほとんどがラガービールです。糖分が少なく爽快な喉越しを楽しめるラガービールは、グビグビ飲むのにぴったりなジョッキが使われることが多いですね。

――居酒屋では大手ビールの取り扱いが多いので、自ずとジョッキで飲む機会が増えるということなんですね。


実際に見せてもらいましょう!


1.グラス:チューリップ×ビール:両国麦酒 バーブドワイヤーDIPA
▲カウンターにスッと出てくる様子がスマート。なおふだんはこのように、スタッフのマスクやフェイスシールド着用、テーブル間のシールド、入店時のアルコールでコロナ対策をされています。

▲呼び名の通り、チューリップのような形状。

城戸さん:「バーブドワイヤーDIPA」は、ホップやエステル(麦芽が発酵する際に酵母によって生成される香味成分)の風味でパイナップルのようなフルーティーな香りが特徴です。チューリップグラスを使うのは、それを際立たせるため。時間が経つにつれ、外側に広がった飲み口から華やかに香ってくるので、ゆっくり飲んでいただきたいです。

――こちらは泡が立ってませんね。

城戸さん:余計な苦味や渋みが強く出ないように泡は立てないようにしています。

2. グラス:ヴァイツェン×ビール:山口地ビール ヴァイツェン
▲ジョッキほどではないですが、ヴァイツェンもスタンダードなグラスですね。

城戸さん:ヴァイツェンは非常に泡持ちがいいビールなんですね。ビールの泡というのは、ホップの苦味成分とタンパク質により生まれます。ヴァイツェンは小麦をたくさん使っているので、タンパク質が多く、泡持ちがいい。そこで、泡を作ってもこぼれないように上部が広がっているグラスを使っています。ちなみに、バナナやクローブ(スパイス)の香りが強くなる傾向があるので、泡を立てることで香り成分をほどよく飛ばすのがヴァイツェンのおいしい飲み方です。

――先ほどチューリップグラスで入れた「バーブドワイヤーDIPA」は泡がなかったですが、こちらはモコっとしてますね。そもそもビールって「7対3が黄金比」と言われていますが、そこにはこだわらないんですか?

城戸さん:7対3というのは、かつて日本で起こった「泡裁判」が元になった誤解ですね。

――そんな裁判があったんだ......。

城戸さん:ざっくり言うと、泡の割合が多いビールを提供したお店と、それに怒ったお客さんとの間で起きた事件。その裁判ではお客さんの訴えが退けられる結果になり、その判例が元で7対3までは泡の量として適切だろうと認知されるようになりました。それがいつの間にか「おいしいビールの黄金比」として定着してしまったんです。当然ながら、泡立たせるかどうか、どのぐらいの泡がいいかはビールによって異なるので、決まった黄金比というのは存在しないんです。

3. グラス:ピルスナー×ビール:富士桜高原麦酒プレミアムピルスナー
▲常時70ものタップが稼働していますが、常に空きを用意しておき、新しいビールが入荷されたらそこに繋げる。それによって、ガス圧を手動で調整した際の誤差すら許さず、味わいが変わらぬよう徹底管理しているそうです。

▲なんだかわからないけど、このグラスだと普通のビールよりも高級な感じがします。

城戸さん:ピルスナーグラスはいろんなビールに使いますが、特に、淡色でさっぱり飲みたいビールにいいです。「富士桜高原麦酒プレミアムピルスナー」は、今回紹介する中で唯一のラガービール。特徴としては、マイクロブルワリー(大手ビールメーカーに対して、小規模でビールを生産する工場や醸造所)で作られているためしっかりしたモルトの味わいとホップの苦味がありますが、アサヒさんやキリンさんなどいわゆる大手ビールの味わいに近いです。ほかと比べてまっすぐなグラスは、舌の上を通過するスピードが速いため、よりさっぱり飲めます。

4. グラス:パイント×ビール:両国ブルーイング ゴールデンスランバーペールエール
▲ここまで紹介したグラスと比べると、これといって特徴がなさそう。

城戸さん:パイントグラスは、これまで紹介したものよりも厚みがあります。

――見た目は普通だけど、確かに厚みはありますね。

城戸さん:ペールエールはグビグビいくビールではなくて、例えば友人と喋りながらなど、一口ずつ味わいを感じて飲むもの。だから、手の熱が伝わりにくい厚みのあるグラスを使いたいんです。それなら居酒屋でよく使われる円筒状のジョッキでもいいように思えますが、不要な香りが出たりするので、うちのお店ではパイントグラスを採用しています。

5. グラス:トロピカルパンチ×ビール:えぞ麦酒 ローリングサンダーインペリアルスタウト
▲ブランデーグラスにしか見えない。

城戸さん:ビールはアルコール度数が高いほど、香りが複雑になります。

――ブランデーグラスは、アルコール度数が高くて芳醇な香りが特徴のビールに適しているということですか?

城戸さん:そうですね。「えぞ麦酒 ローリングサンダーインペリアルスタウト」はアルコール度数が13.6%もあるのに加えて、ウイスキーのバレル(樽)で寝かせているのでさらに複雑な香りが楽しめます。トロピカルパンチは、鼻を覆うほどグラスの口が広いので、その香りを楽しむのにぴったりなんです。また、飲んだ際に口内に広がりやすいので、ビール本来の味わいも感じやすいですね。


ビールとグラスの相性に「絶対」はない

▲城戸さんにもう少しうかがいました。

――グラスの形状によって、口内への広がり方や舌を滑り落ちる長さ、香りの出方が違うので、グラスを変えると味わいに変化があると。

城戸さん:はい、ただ「このビールにはこのグラス」と明確に決められている、ということはないです。うちのお店でも、新しいビールを仕入れた際にはいろんなグラスに注いでみて、最適解を探すんです。

――フードとのペアリングを意識するように、自分なりにグラスとのペアリングを試すのも楽しみ方の一つかもしれませんね。

城戸さん:うちもそうですが、グラス選びにまでプライドを持っているお店ではおすすめはできませんが(笑)、自宅でいくつかグラスを購入し、ビールに合わせて試してみるのもいいかもしれません。今はマイクロブルワリーが増えて、個性的なビールがたくさん出てきていますからね。

未成年の飲酒は法律で禁止されています。お酒は20歳を過ぎてから。

取材協力:「麦酒倶楽部 POPEYE」東京都墨田区両国2-18-7

(構成・文=シーアール、編集=ヤフー、撮影=小林岳夫)

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